カナダのアンモナイト（アンモライト原石）は発掘されるときに、欠けもなく、完全な形で発見されることは極稀で、そのほとんどは、欠片という形で発見されます。
遊色効果の少ないアンモライト原石標本は、完全体の標本も少なくないですが、遊色効果の多いアンモライト原石標本の完全体は発掘される数も非常に少ないことから、発掘されると、すぐに買い手が付いてしまい、一般の流通ルートには適正価格で出てこない傾向にあります。
従って、遊色効果の多いアンモライト片は、実際にジュエリーに加工できるクオリティーをもっていますので、加工技術を持ったジュエリーデザイナーさんたちの素材として、また、部屋のインテリアとしても人気があります。
ただ、母岩（遊色効果のあるアラゴナイト層以外の部分）が付いているので、重さは重く、余程小さいものでない限りは、そのままアクセサリーとして身につけるまでにはいきませんでした。

さて話は変わり、先日非常にユニークなお客様が当研究所を訪問されました。
お洒落で、気品のある、とてもエネルギッシュさを漂わせたご婦人でした。その方のご要望は、「金」や「シルバー」の枠にアンモライトをはめ込むのではなく、アンモライトの破片をそのままネックレスにということでした。
当研究所始まって以来の珍しいオーダーです。自然の化石をそのまま身につけるというコンセプトの下、世界各国の様々なアンモナイトを加工販売しているのが当研究所ではありますが アンモライト破片そのものをネックレスにするという大胆な発想は今までに私の中にもありませんでした。お客様に教えられた次第です。
そして私はその製作に取り掛かりました。まずは母岩部分に高速回転で穴を開ける作業から始まり、裏側全体をクリーニングして形を整え、ぽろぽろと母岩が剥がれてこないように、コーティング剤を塗り、乾燥後、さらにクリーニングするという作業でした。
きっと日本でこのようなネックレスをされているのは、お一人ではないでしょうか。少なくとも私はお会いしたことがありません。あまりにも貴重なこの瞬間をぜひ残しておこうと思い、そのお客様に相談して、許可をいただき、神秘色が輝く胸元だけを写真に撮らせていただきました。7000万年の眠りから醒めた化石自身もきっと喜んでいることでしょう・・・・